と、以上のようなかなり大きな大会になるようである。
大会前日 出鼻をくじく雨の丹沢湖!
東名高速道を大井松田ICで降り、丹沢に向かい、山道を登っていくと薄暗く立ちこめていた雲り空からポツリポツリと雨が降り出す山独特の空模様に変わってきた。
案内の地図を頼りに会場に9時過ぎに到着、誘導員の指示に従い検艇所の前にカヌーを降ろして、駐車場へ車を進める。
受付を済ませて戻ってきた矢木沢倶楽部を発見。
「おはようございます。早いですね」
「港北パーキングに4時集合で7時前にはここに着いちゃったよ」と、いつも元気な矢木沢倶楽部である。
「もう、車がいっぱいですね」と、駐車場を見渡して僕が言った。
「寒河江君達ここに止めなよ!いま車を寄せて空けるから」と、島田さんがメンバー達の車を詰めて、2台分のスペースを確保してくれた。
やる気満々の島田さんが率いる矢木沢倶楽部の国体出場選手は、大沢さん・海宝さんの2人艇コンビ、井本さん、林さん、曽我夫妻、佐久間さん、藤城夫妻、和田さん、大貫さんと超豪華メンバー達は、すでに受付を済ませゼッケンを手にしている。
それではと、僕たちも受付と検艇を済ませ、ゼッケンをもらうと、すでにフリー漕行の時間だ。
しかし、先ほどから降り出していた雨は本降りに変わり、しばし車の中で寝て待つ事にする。
しかしこの雨の中、しびれを切らしたのか矢木沢倶楽部が次々と湖面に漕ぎ出していく。
本日はフリー漕行が予定されており、午前は10時から12時、午後は1時30分から3時30分までと、時間制限があるのだ。
しばらくすると雨も小降りになってきたので、コース確認のため湖面に漕ぎ出し、僕がエントリーしているファルト艇 K-1にどんなフネが出艇するのか気になり辺りを見渡す。
ファルト艇の規定が無いのでフェザークラフトを持参したのだが、やはり同じ考えなのかフェザークラフトが他にも何艇か見受けられる。
その中でも反則技とも言えるフェザークラフトの最高速モデル「カサラノ」までも持ち込んでいるカヤッカーもいるのだ!
この時点ではフネの性能が優勝を左右すると思っていたのだが、その考えの甘さを思い知らされようとは思ってもみなかったのである。
いつもと変わらぬ怠惰な生活!
天気は徐々に回復傾向にあるのか、フリー漕行も終わるころには、すっかり雨も上がり夏らしい青空が戻ってきた。
受付で参加者に手渡された昼食券を持ってイベント会場に移動して、ラーメンを食べることにするのだが、屋台の前は長蛇の列。
この状況を見て飯田君に3人分の食券を渡しそのまま列に並ばせ、斉藤さんにテーブルとイスの場所取りを指示、僕は焼き鳥とビールを買ってテーブルにつきラーメンの到着を待つ。
気温は一気に上昇し雨上がりということもあって大変蒸し暑い、こうなると午後のフリー漕行も忘れ、「よし!もう1本ビールの追加だ!」と、徐々にいつもの宴会系になだれ込む大会を明日に控えた選抜選手たち。
玄倉ロッジが大会本部で用意していくれた本日の宿となり、午後1時より入室が可能とのことなので、午後のフリー漕行はエスケープして、荷物をまとめてロッジに移動することにする。
部屋の隅に寝場所を確保して、今朝早かったので寝不足気味のためしばし昼寝をする。
昼寝から目覚めると、夕食までの時間に近くの温泉に行こうという話になり、こんな時の移動手段として自転車を用意していた、たきぎ工場の3名は、外で宴会モードに突入している矢木沢倶楽部をよそに中川温泉に向かう。
玄倉から湖岸沿いの道を軽快に自転車で走るが、思ったよりも道に高低差があり、行きは下りでも帰りは登りになるので、帰りコースを頭に描きながら先に進む。
大仏大橋を渡った所にある酒屋で道を尋ねると、ここから先は上り坂で自転車で30分以上かかることが判明する!
そのことが解ると水分補給に立ち寄った酒屋で、一度手に持ったアルカリイオン飲料は一番絞りに持ち替えられ、温泉行きをここで断念する。
帰りにビールを仕入れてロッジに戻ると、今度は矢木沢倶楽部が慌ただしく動き出している。
温泉行きを断念した事を伝えると、これから車で温泉に行く言う。おい、おい、真っ赤な顔して大丈夫かい?と心配になる。
丹沢に夜な夜な響きわたる怪しい呪文
大会スタッフがやってきて、夕食の準備を始めだした、予想していたとおりのカレーライスであるが、明日の大会を控え験担ぎのつもりなのか、カツカレーがメインディッシュ、食後のデザートにはオレンジがひとつ、まさにシンプル!健全な夕食だ!
「ちょっとビールが足りないな、それにつまみがカレーじゃな……」と、僕が飯田君の顔をのぞき込む。
「それじゃぁ、行って来ましょうか?」と、発熱体飯田は再び自転車に飛び乗り疾風のごとく走り去っていった。
しばらくすると、温泉に行っていた矢木沢倶楽部が戻ってきて、いつものカヌーキャンプと変わりのない宴会へと突入していく、明日のカヌーマラソンは何処へやら、緊張感などまるでない。
ロッジの下では親子キャンプ教室が行われているらしく、やはり同じく夕食のメニューはカレーライスのようだが、班に分かれてカレーの早作り競争をしているようで、とても賑やかだ。
日もすっかりと暮れ、食事も済んだのか親子キャンプの方はキャンプファイヤーの準備が始まり、薪の周りを大勢の親子が取り囲んでいる。
しかし、なかなか火がつかない??どうやら火の神様の登場を待っているようだ。
「さあみんな、空に向かって火の神様を呼ぼう」
「足を開いて手前に、大きな声で!ロクラク、ロクラク、ヤァー!……」と、司会進行役の妙に元気な人が大声で怒鳴っている。
「おい、おい、下で何か始まったよ」
「何とか?かんとか?ヤァーだって、ダチョウクラブみたいだな?」と、僕が言うと再び……。
「足を開いて手を前に、大きな声で、ロクラク、ロクラク、ヤァー!」と、更に大きな声がする。
「なに?足を開いて手を腰に、歯を食いしばれ?軍隊じゃないんだから」と、一同は興味津々でこれから何が始まるのか釘付けになる。
「ロクラク、ロクラク、ヤァー、さぁみんなで」
「ロクラク、ロクラク、ヤァー、もっと大きな声で、ロクラク、ロクラク、ヤァー」と、更にテンションをあげていく。
「ああやって、そのうち鍋やフライパンをくれたりするんだ、そして最後に高い布団を買わされちゃうんだよ」と、島田さんも興味ありげにのぞき込んでいる。
やがて火の神様も現れ薪に火が灯され、いっそうに盛り上がる健全な親子キャンプ教室とは対照的な、酔いどれのおじさん達は、大会を明日に控えくたびれたエンジンに添加剤のアルコールを詰め込むのでありました。
やっぱり最後はエンジンの性能だった!
おにぎりと缶入りのお茶と言うこれまたシンプルな朝食を済ませ、湖に行って再度、受付と検艇を受けて開会式に望む。
神奈川県知事と山北町長の挨拶の後、神奈川県カヌー協会から競技とコースの説明と注意事項があり、いよいよ本番である。
11時に10qコースがスタート、30分後に5qコースのスタートである。
僕が出場するのは5qコースなので10qコースのスタート位置まで移動してカメラを構えスタートの瞬間を待つ。
フライングもなく一斉にスタート!いち早くサーフカヌーとレイシング艇が飛び出し、その後は水しぶきで良く確認できない。
30分後には5qコースのスタートなので慌てて戻りフェザークラフトに乗り込む。
170艇を越えるカヌーが一同にスタートするので少しでも良いスタートのポジション取りをしようと夢中になっていたら、標的に定めたフェザークラフト・カサラノを見失ってしまった。
何とか最前列に陣取りスタートの合図を待つ。
「スタート10分前、……」
「1分前、……」
「10秒前、……レディーゴー」ピストルの合図で一斉にスタート!真っ先に飛び出したのがファルホークの2人艇、その後を追いかけ水しぶきがあがる。
スタートダッシュで何とか先頭グループにつけることが出来、まずは良い位置をキープすると言う第一目標を達成した。
辺りを確認すると左前方20m先に目標のカサラノを発見!他にファルトの1人艇はいない!クラス単独2位をキープだ!表彰台がちらつく!!
1qほど漕いだ少し右にカーブするところで、マラソン選手がやるように後ろを振り返ると、後続のものすごい数のカヌーが迫ってくるようだ。
10qコースとの分岐点まで来たところで、サーフカヌーがものすごいスピードでやってきた、10qのトップが折り返してきたようだ。
大きく右にコースを変えると大仏大橋が見え、折り返しのブイが確認できるところまで来て、少しペースを落とし後半のラストスパートに備えようと思っていると……。
「ハァ、ハァ、ハァ……」と、後ろからいたずら電話のような息づかいが迫って来る?
振り返ると2艇のファルトが左舷後方7時の方角より急接近!
慌ててペースを上げようとするのだが、夕べ入れ過ぎた添加剤のスーパードライがいけなかったか、僕のエンジンはすでにオーバーヒート気味、折り返しを目前に一気にファルホークとマジェッタにごぼう抜きにされ4位に転落!
しかし、折り返しを終わってまだ依然と4位をキープ、前の2艇を追いかける、コースの分岐点では右側から続々と10qコースのシーカヤックが合流してきてゴールを目指し団子状態となる。
その中にに矢木沢倶楽部の藤代さんを必死に追漕する発熱体飯田を確認!なんと島田さんの前を漕いでいるではないか。
「寒河江さーん!」と、こちらに気付いた飯田君が僕の方を見て大声で叫んだ。
「そのまま行けぇー」と、自分に言い聞かせるように大声で怒鳴り返す。
しかし、一度落としたペースは上がらず、エンジンは悲鳴をあげズルズルと後退し、更に順位を落としていく企画広報編集人寒河江……。
最後は息も絶え絶えにゴール!
艇を上げ車に戻るとすでにみんな缶ビールを片手に目はうつろのフラフラ状態の矢木沢倶楽部とたきぎ工場の面々がいた。
「お疲れさま、どうでした」と、僕が聞く。
「やっぱり、フネじゃないよエンジンだよ」
「若いエンジンにはかなわないよ」
「何てったって体つきが違うよ」と、ポコッと膨れたビール腹をなでる。
この日のために用意した新しいカヌーやパドルだけじゃダメだ!やっぱりエンジン次第だということに話はおちついた。
テーブルを広げイスに座り缶ビールを片手にだらしなく弛んだ身体をした我々の横を、逆三角形をした若い元気なエンジンが歩いていった。
入賞は逃したが、抽選と飛び賞がある!
2時からの閉会式は集計に手間取っているのか30分ほど遅れて始まった。
矢木沢倶楽部は今年1月の松戸市長杯に続き大沢・海宝コンビがシーカヤック K-2クラスで見事に優勝をした。
他のメンバー達も入賞は逃したものの、予想を上回る大健闘で全員無事に完漕をはたした。
この後の楽しみは、カヌーが当たる抽選会と飛び賞の発表だ。
ゼッケン番号がそのまま抽選番号となり、参加者一同抽選会場を見つめる。
残念ながら抽選はハズレ、飛び賞の方もたきぎ工場の3名はいずれも数番違いで飛び賞も逃がしてしまった。
大勢で参加した矢木沢倶楽部からは何名かが、見事に飛び賞までも獲得して閉会式は終了した。
98年夏「カヌー・マラソンIN丹沢湖」は、それぞれ参加者の思い出を作り、静かに幕を閉じたのでありました。
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